ヴィンディーマ(ブドウの収穫)

収穫の秋。9月半ばから10月始めにかけて、この辺りはブドウ摘みの季節である。どこも家族総出でブドウを摘む。アデガ(民家の1階部分。作業場兼貯蔵室になっている)の隅に設置されているタンクに潰して入れられると、ブドウはすぐに発酵を始める。因みに白ワインならば一両日、赤ワインなら4日から1週間くらいタンクで発酵させてから、樽に移す。

家の庭には約200本のブドウの木があるが、一次発酵に使うタンクや樽など必要な設備がないので、隣のオーランドの設備を借りた。タンクは1メートル四方で深さが1.6メートルくらいあるが、私達のブドウとオーランドのブドウを一度に発酵させられるほど大きくはない。最初に私達がタンクを使い、一次発酵が終わった汁を樽(500リットル入り!)に移した後でオーランドがブドウの収穫をするという話だった。私達はオーランドが帰ってくる数日前にブドウを収穫した。

午前中にスティーブと二人で収穫を始め、暑くなる時間帯は休憩し、涼しくなる夕方4時頃から作業を再開。ジョアオンが手伝ってくれた。彼はポルトガル人にしては珍しく(?)几帳面である。時間通りにハサミを持って現れた。84才で耳が少し遠いが、畑仕事に余念がない。特別な行事があると煉瓦のオーブンに火を入れてパンまで焼く。昔はリスボンでパン焼き職人をやっていた。タクシーの運転手をしていたこともあるという。

この日の夜、私達はジョアオンと妻のオデットを夕食に招待していた。6時頃までには作業をすべて終え、食事の準備をする予定だった。が、思ったよりも時間がかかった。6時までには終わりそうもない。

見かねたオデットがハサミを手に手伝いにやってきた。続いてアリス、ローザ、マニュエルもハサミを持ってやって来た。足が悪いイルダはイスに座りながら応援してくれる。

ビンディーマの時には、手伝ってもらった家が昼食を振る舞うという伝統がある。みんなに手伝ってもらってジョアオンとオデットだけ、夕食に招待するのも気が引ける。私は作業を中断してマンションに戻り、ほとんど準備ができていた夕食を持って村に戻ってきた。こうすれば、手伝ってくれた人達も一緒に食事ができる。

村に戻ると、作業は既に終わっていた。オデットとジョアオンのアデガを借りて食事をすることになった。オデットがデザートを、ジョアオンがワインを用意してくれた。

裸電球に照らされた石壁のアデガで思わぬ宴会になった。

***

数日後。オーランドとエレナが帰ってきた。彼らの土地は広いので、手伝いの数も多い。谷の下の方から幾重にも重なった石壁のブドウ棚を一段ずつ、収穫しながら上っていく。ブドウが山盛りに入っているバケツをオーランドがジープでアデガへ運び、潰してタンクに入れる。別々にワインを作るという話だったはずだが、オーランドは私達のブドウの上に自分のブドウを潰して入れた。ホントに入りきるの? と聞いてもウインクしながら大丈夫、と言う。大丈夫ではなかった。発酵が始まるとブドウの皮がタンクの表面に押し上げられる。それがタンクの上にてんこ盛りとなった。オーランドはブドウの皮を押し戻しながら、さらにブドウを潰して入れる。だがいくら何でも限界がある。ブドウ汁があふれ出した。これ以上、どうやったって入らない。50リットル入りの容器2個にブドウ汁を入れ替えた。そうしてやっと、収穫したブドウすべてをタンクに入れることができた。最終的にうまくいくのだが、オーランドの仕事はどうもアバウトである。

ブドウの収穫は何故か必ず昼食までに終わる。収穫が終わると食べきれないほどの昼食とワインが出る。ここではアデガにプラスティックのテーブルとイスが並べられ、手伝いに来た20人がテーブルを囲む賑やかな食事になった。

夕方、みんなが帰って静かになったアデガではタンクに入ったブドウが発酵するプシュプシュという音が聞こえた。

***

一週間後、今度はジョアオンとオデットのビンディーマである。私達も手伝いに行った。彼らの庭はそんなに広くはない(私達の庭と同じくらい)。手伝いに来たのはジョアオンの妹と娘夫妻である。

9時頃に行くと、既に作業が始まっていた。ここの畑は手入れが行き届いている。これまで、ブドウの収穫とはつぶれるブドウですぐに手もハサミもべとべとになるものだと思っていた。そうではなかった。きちんと手入れされているから収穫しやすいし、手も服もそんなに汚れない。

ジョアオンはタンクを二つ持っているので、赤と白のワインを作る。私達のワインは白いブドウも赤いブドウも一緒に入れたのでロゼと赤の中間くらいのワインができるはずだ。

作業はやはり昼には終わった。娘が食事を作ってくれた。アデガで食事をするだろうと思っていたら、きちんとテーブルがセットされたダイニングに通された。作業服で入るのがためらわれるほどだった。ジョアオンが作った去年のワインがクリスタルのデカンタで出てきた。