モモの引越
モモ(うちのネコ)の預かり知らぬところで、ポルトガルへの引越が決まっていた。引っ越すことは何度も話したが、理解したかどうかはわからない。
私達にしても、ネコ同伴の海外旅行(?)は初めてである。出発の半年以上前から情報を集めるなど準備を始めた。欧州連合(EU)諸国とポルトガルの、ペット輸入に関する法律と手続き、ペット同伴で飛行機に乗った飼い主の体験談、使う航空会社(KLMオランダ航空)の規定に関する情報が知りたかった。
最初に在日ポルトガル大使館に問い合わせたが、そこでつまづいた。情報がない。それでは、とポルトガル政府のサイトを見た。EUの法律に準ずるらしいことはわかったが、確信が持てない(ポルトガル語がよくわからない)。次にEUのサイトへ。2004年に変わったペットの輸入に関する欧州連合の法律、必要書類や手続きの説明がある。
EUにはオランダから入るので、オランダ政府のサイトにもアクセス。オランダ政府とEUの要求事項は同様で、ここで「家庭飼育用として欧州連合に輸入される小動物類の獣医証明書」(正式名称ではありません)がダウンロードできた。ポルトガル政府のサイトからダウンロードした書類と同じ書式である。集めた情報を総合してみると、日本も含めて狂犬病の危険がない国からEUにペットを輸入する場合には、ペットにID用のマイクロチップを埋め込み、狂犬病予防接種証明書を取得すればいいらしいことがわかった。健康診断書が必要という情報もあったが、確認できなかった。
最終目的地であるポルトガルの情報が確認できないので不安は残ったが、EUに入ってしまえば(人間の場合)リスボン空港でパスポートを特にチェックされることはなかった。ポルトガルよりも法律に厳しそうなオランダの要求事項を満たしていれば、先ず問題はないだろう。EUの法律に従って準備を進めることにした。
KLMではキャリーバッグの縦横高がそれぞれ43x31x20センチ以下、キャリーバッグとペットを合わせて4.5キロ以下であれば手荷物としてペットを機内に持ち込むことができる。これより大きくなると貨物扱いで預けなければならず、こちらでケージを用意しなければならない。機内に持ち込んだ場合の輸送費用は1キロにつき6,500円ということだった。
さらにペット同伴で飛行機に乗る飼い主のサイトから実用情報を得た。必要なものやあった方が便利なもの等、様々な情報が載っている。一番役に立ったのはケーキ箱を利用した即席トイレの作り方だった。
ペットの機内持ち込み用にデザインされたキャリーバッグがこのサイトで紹介されていたので、それをを米国から取り寄せた。しっかりしているが重く、モモと一緒に計ると5.3キロになる。800グラムの重量オーバーである。骨格が大きめのモモは太っているわけではないが重い。貨物扱いにはされたくないので5月までに何とか減量させなければならない。
2005年2月半ばにポルトガルに飛ぶ前に、モモにマイクロチップをつけて、狂犬病の予防注射を済ませた。動物病院に行くと震えながらも大人しく診察や注射を受けるモモも、タイ米ほどの大きさのマイクロチップの挿入は痛かったのだろう、「みゃん!」と一声、叫んだ。
5月に一時帰国するまでの約3ヶ月、友人のまりちゃんがマンションに住み込んでモモの世話をしてくれる。モモのダイエットを頼んでポルトガルに行った。
4月の初め頃、まりちゃんから、「モモちゃんの体重、どうしても3.8キロから減りません...」と泣きそうなメールが入っていた。心を鬼にしてダイエットしてくれたようだが、冬に体重を落とすのは難しいのだろうか。
5月に帰国してから私がモモのダイエットを引き継いだ。ドライフードは一日70グラムぐらいが適当なのだが、それを30グラムに減らした。4週間弱で600グラムの減量である。体重が落ちなければ、キャリーバッグを分解して中身を取り出し、チェックインの時だけ、4.5キロ以下にしなければならない。
出発の3週間前にKLMに電話をして、手荷物でネコを一匹輸送する承認を取った。キャリーバッグのサイズと重量も申請しなければならなかったので、制限ぎりぎりで申請。実際には重量オーバーだったが、搭乗時までに何とかすればいいことだ。
モモの体重は減らない。キャリーバッグを分解するしかないか、と思っていた時、東急ハンズで軽量のキャリーバッグを見つけた。早速メーカーに電話をしてキャリーバッグの本体と各付属品の重量を聞いた。これならいける。付属品をつけてモモを入れても4.65キロにしかならない。付属品を取り外せば4.5キロ以下になる。
出発一週間ほど前になって、KLMから新たに健康診断書が要求された。出国48時間以内に、モモが飛行に問題ない健康状態であることを獣医に証明してもらわなくてはならない。最初はこれがEUの検疫で必要なのかと思った。何度も電話をしてやっとそれがKLMの必要書類であることがわかった。
出発の2日前に新しいキャリーバッグにモモを入れて獣医に連れていった。健康状態は良好。健康診断書は問題ない。必要最低限の付属品をつけたキャリーバッグとモモの重量を計ると4.54キロ。40グラムの重量オーバーである。搭乗拒否されることはまずないだろう。
5月29日。モモは今日、一生にたった一回だけ(の予定)、飛行機に乗る。成田からアムステルダムまで約11時間。アムステルダムからリスボンまで約3時間。アムステルダムで4時間半の待ち時間がある。もちろんそれに成田空港までの所要時間約2時間、リスボン空港から家までの約3時間が加わる。約24時間、モモは小さなキャリーバッグの中で過ごさなければならない。
午前4時頃に起きて、4時半に酔い止めをモモに飲ませた。30分で効き始めて11時間くらいは眠っているということだった。モモは机の上に座って、池のコイを眺めている。モモがここでコイを眺められるのも、これが最後である。
5時。タクシーで新宿新南口へ向かう。薬が効き始めてもいい頃なのに、怖いからなのか、モモは空港に着くまで鳴き続けた。
出国に必要な書類はすべて事前に空港の動物検疫所にファクスで送ってあったので、手続きはすぐにすんだ。EUの検疫所に渡す書類の原本と保管用の複写を一部ずつもらい、キャリーバッグには「飛行問題なし」と書かれた健康診断書を結びつけ、酔い止めの薬をさらに2片飲ませた。
そしてチェックインである。書類は万端だがさて、重量は...? 重量計にモモがキャリーバッグごと乗せられる。何と重量計はぴったり4.5キロを指した。思わず「やった!」と小声で叫んでしまった。モモの航空運賃は4キロで計算され、何故か8,300円しか請求されなかった。KLM用にわざわざキャリーバッグにつけた健康診断書はチェックもされなかった。
手荷物の検査ではモモはX線を通らず、キャリーバッグに入ったまま目視検査を受けた。出入国管理では前日に私が手書きで作ったモモのパスポートにスタンプを押してもらった。これでモモは正式に日本から出国したことになる。
鳴き疲れたのか、薬が効いてきたのか、搭乗時にはかなりおとなしくなっていた。飛行中も薬でぼーっとしているのか、あまり反応しない。9時間ほどしてから、トイレに連れていった。キャリーバッグから出すと、しばらく狭いトイレの中で匂いを嗅ぎ回っていたが、組み立てた即席トイレをちゃんと使った。席に戻るとキャリーバッグの中でごそごそしていたが、また静かになった。
アムステルダムに到着して車椅子マークの着いているトイレに3人(私とスティーブとモモ)で入った。モモに水を飲ませ、餌を少し食べさせた。
ここでEUに入るためにモモの検疫を済ませなければならない。だが、入国管理もKLMも空港のインフォメーションも検疫について何も知らない。その上、検疫所は空港内にないという。チェックイン時に機内持ち込み手荷物につけられた「機内持ち込み承認済み」のシールを指して、「もう承認されているじゃないの」と言われた...?
4時間半の待ち時間があると言っても、離陸1時間前には搭乗ゲートに行きたい。国際線ターミナルから国内(含EU)ターミナルに移動した。途中、出入国管理でモモのパスポートにスタンプを押してもらった。係官は「あら、こんなパスポート見るのは初めてよ」とまじまじとパスポートを見ていた。手荷物の検査ではモモを抱いて金属探知器を通り、キャリーバッグはX線検査を受けた。
これで私達はEUに入ってしまった。モモは事実上、ノーチェックである。オランダ政府のホームページには書類がすべて揃っていなければ空港で健康診断を受けなければならない、もしくは送り返される場合もある、と厳しいことが書いてあったけれど何だったのだろうか。モモはリスボンの空港でもチェックされることなく、ポルトガルに入国した。
モモがEUに入ったことを証明するのは彼女のパスポートに押されたスタンプだけである。日本を出国した後、モモは正式には消息不明となっている。